20年ほど前に主流となっていたシリコンバッグによる豊胸手術。しかし老朽化など、避けられないトラブルが今、急増しています。このような背景を受け、またその安全性の高まりから、豊胸術の現在のトレンドとなっているのが脂肪注入です。実際、シリコンバッグやヒアルロン酸と違い自己組織なので、拒否反応がなく触感も自然という点で人気も集めています。ただし、この脂肪注入にもリスクがないわけではありません。そこで、失敗しないために知っておきたい情報を一挙公開します。
失敗しないためには、まず失敗事例を知る必要があります。全体数を見れば前述のようにシリコンバッグのトラブルが多くを占めるので下位ではありますが、このサイトの「よくある失敗レポートBest10」にも入っている右の3つの失敗は脂肪注入が原因のもの。特に2012年以降は、しこりに関するご相談がとても増えています。
脂肪注入は以下のポイントが適切であれば、様々な面でとても有効な豊胸手術と言えます。クリニックのメニューやドクターの技術力などで左右されることですが、カウンセリングの際に以下の点についてはしっかり確認しておくことが必要です。
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- まずは、健全で清潔な脂肪細胞であること。麻酔液や血液成分、死活細胞は基本ですが、加えて肥大化した老化細胞も除去。そのためには、あえて老化細胞を破壊する必要があります。
また、細菌などの混入(コンタミ)を防ぐためにも、採取から注入までが空気に触れないプロセスであることが大切です。
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- 脂肪細胞も生きているので、血液や酸素が必要です。しかし、1カ所から大量注入するとそれらが全体に行き届かず、壊死するものも。上質な脂肪でも、少量ずつ分散注入しなければ高い確立でしこりができてしまいます。
現在の見解では、10mm以上の大きさで壊死すると吸収されず残ると言われています。
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- 注入できる脂肪量には皮膚の伸展が関係します。皮膚が張りつめた状態ではバストの内圧が高くなり、脂肪細胞が塊で壊死してしまうからです。
個人差はありますが、経験からすると1回の手術で片胸250cc前後が限度と言えます。つまり「1回に400cc注入できます」などの広告は危険と判断する方が懸命でしょう。
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- 脂肪注入で理想のバストを手に入れたとしても、脂肪の採取部位がデコボコになっていたり、皮膚の質感が損なわれてしまったりすると、それは手術が成功したとは言えません。
体への負担が少ない方法か、脂肪吸引の経験が豊富なドクターかなどを確かめて、採取部位の仕上がりも重視しましょう。
現在行われている脂肪注入の手法はクリニックによっても異なり、様々な種類があります。なかでも代表的な手法を比較します。
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- 採取した脂肪を茶こし網やガーゼの上にのせ、生理食塩水で血液成分などを洗い流す方法です。現在では、その後に遠心分離を施す施設もあります。
ただ、手作業なので完全に不純物を除去することが難しく、また空気に触れることでコンタミ(ほこりや細菌の付着)の可能性も高まるため、感染症のリスクも考えられます。
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- 脂肪幹細胞の働きに注目した手法で、採取した脂肪の一部から幹細胞を抽出し、残りの脂肪に加えて注入します。
幹細胞量が多く定着率も高まりましたが、幹細胞を抽出するために脂肪をロスすることや酵素を使用すること、手術に長時間を要することなどが懸念される点です。
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- 幹細胞がクローズアップされたことから、その言葉のイメージを広告的に利用しようとするもの。説明では幹細胞を抽出すると書かれていても、その方法に裏付けはなく、実際には従来の脂肪注入と同じように麻酔液などを洗い流しただけの脂肪を注入するという手術内容のところもあるため注意が必要です。
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- 特許技術のフィルターを使用した荷重遠心分離により、注入には不要な肥大化した老化細胞も破壊して除去できる技術。これにより、豊富な幹細胞を含む健全な脂肪に濃縮することができます。空気に触れない工程なので、コンタミのリスクも低いのですが、正規のプロセスを怠った手術内容でのトラブルも増えています。
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- 2重構造のフィルターに通すことで採取した脂肪をろ過し、不純物を分離する手法。空気に触れないプロセスなので、コンタミのリスクは低いのですが、フィルターに通すだけでは老化細胞まで除去することはできず、濃縮は困難。
脂肪幹細胞注入と併用する施設もあります。